大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和60年(ラ)330号 決定 1985年12月04日

抗告人 株式会社 関西クレジットサービス

右代表者代表取締役 辻洋

主文

一  原決定を取消す。

二  本件を大阪地方裁判所に差戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  そこで考えてみるに、本件記録によると、本件申立は、民事執行法二二条五号所定の執行証書によってなされたものであるが、抗告人から債務名義として提出された原決定別紙請求債権目録記載の公正証書(正本)には、請求債権につき、本旨条項として、第一条に、「昭和五九年三月一〇日債務者鳥山武仁は、債権者株式会社関西クレジットサービスに対し、末尾編綴の契約条項のとおり債務負担を承認し、返済目録記載のとおり履行することを約した。」との記載があるにすぎず、その具体的な給付請求権の内容については、すべて添付書面の記載を引用している。

すなわち、右証書は、抗告人と債務者鳥山武仁との間において作成された公正証書作成嘱託用委任状に記載された「債務確認ならびに弁済契約条項」なる書面(なお債務額の詳細は「後記債務内訳目録記載の通り」とあり、又支払方法は「後記返済目録記載1から4の通り」とある)を引用し、かつこれを添付して作成されている。そして、右添付書面は前記公正証書嘱託用委任状及び契約条項(私署証書)を複写機で複写したコピーがそのまま用いられており、その記載は横書きのうえ、通常の公正証書にみられるごとく、行と行との境及び欄内と欄外とを区別するための罫線が施行されておらず、また接続すべき字行の空白部分に墨線をもって接続させる処置もとられていない。しかも本件給付請求権に関係のない例文的条項が漫然と登載されている。

三  ところで公証人法(以下法という。)四〇条は、公証人の作成する証書に、他の書面の引用及び添付を予定し、それに関する要件を同条一項及び二項で規定し、これによる添付書面は公証人の作成した証書の一部と看做すものとしている(同条三項)。したがって、この規定を活用することは公証事務の合理化、能率化にとって必要又は有益な面もなしとしないであろう。

しかしながら一定の給付請求権を記載した執行証書(正本)は、当事者及びその承継人にとって債務名義となり執行力を具有するものであり、一旦執行段階に入ると適正、迅速な強制執行が期待される以上、可及的にその給付請求権の全内容が一義的、一覧的に(恰も、最たる債務名義ともいうべき判決書の主文に匹敵するように)、明記されることが望ましい。それのみならず執行証書は、その方式及び作成手続が極めて厳正に法定され、これが精確に履行されることによりその正当性が担保され、かつ執行力が付与されるものであり、かくて長年に亘り執行証書のもつ一定の方式(ないし様式)がひろく定着し国民の信頼をかちえているところである。したがって、執行証書に他の書面を引用添付する場合は右の点につき充分留意すべきである。

四  しかるに本件申立にかかる前記執行証書は、公正証書の中心的要旨ともいうべき債務負担の内容、返済条項等がすべて添付書面中にあり、はたして同証書を作成した公証人が、法三五条にいう自ら聴取した陳述や実験した事実を聴取しかつ実験の方法を記載して作成したものといえるかどうか、疑問を差挟む余地なしとしないばかりか、前記二の認定に照らして法三七条二項に違反し、かつ執行証書のもつ方式性、様式性に悖り、さらに公正証書の重要部分の全面的引用として法四〇条所定の引用及び添付の範囲を越えるおそれなしといい難い。

しかしながら、右執行証書はそれを全体としてみるとき、「債務者鳥山武仁は抗告人に対し、昭和五九年三月一〇日現在において、関西カード利用代金債務三六万四四三二円と、確定遅延損害金債務一万五五六八円、合計三八万円の債務を負担していることを承認し、それを昭和五九年五月一〇日から昭和六一年二月一〇日まで二二ヶ月に亘り毎月一〇日(休日の場合翌営業日)に、第一回返済額二万五〇一四円、第二回以降返済額二万〇四〇八円、最終回返済額二万〇三六二円を、関西相互銀行深江支店の鳥山武仁名義の普通預金(総合口座番号二三〇四二六)口座から自動振替の方法により返済する。」旨の債務確認並びに弁済履行を約したことを窺うことができ、その添付書面に関し前記の如き不適当な面が多々存し違法を疑わせる点がないではないけれども、総体として公証人の作成する執行証書として効力を有しないとまでいい得る程の重大な法規違反があるとはいえず、他にその効力を否定する事実も認めえない。そうすると、右執行証書は、民事執行法二二条五号所定の執行証書として効力を有し、本件申立の債務名義となり得るものであるから、そうでないことを前提とする原決定は不当である。

よって原決定を取消した上、本件申立を受理させ、その審理のため、本件を原審の大阪地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 廣木重喜 裁判官 長谷喜仁 吉川義春)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例